源氏物語


2024年に放送されたNHK大河ドラマ「光る君へ」は、源氏物語の作者「紫式部」が主人公でした。
これまでの大河とは趣の異なる、 平安時代の優美できらびやかな世界観に夢中になった方も多かったようです。
さて今回は源氏物語で梅の花やお香が登場する32巻『梅ケ枝』の冒頭部分をご紹介します。
源氏は明石の姫君の裳着(1)の準備に取り掛かっていた。同じ年の2月に春宮も元服し、その後、明石の姫君が入内(2)することになっている。1月末で公私ともにのんびりとしている頃、源氏は薫物(3)の調合をしていた。縁のあるご夫人方にも香の原料を配って、調合をお願いした。熱心に調合をする源氏に負けまいと、紫の上も競うように一生懸命になっていた。
2月10日、雨が降って紅梅が色も香りも盛りの中、源氏の弟の兵部卿宮が六条院を訪れた。仲の良い源氏と兵部卿宮があれこれと話をしていると、ちょうど朝顔の姫君から梅の枝に結びつけられた手紙と、依頼していた薫物が届いた。この機会に、届けられた薫物も試してみて、兵部卿宮にその判定をさせた。朝顔の姫君の薫物は奥ゆかしく、源氏のものは華やかで、紫の上は今風に洗練されていて、花散里はしっとりと、明石の君は優美で…と、どの薫物も優れていて兵部卿宮には優劣がつけられない。その夜、源氏と兵部卿宮は内大臣の子息たちを交えて月の宴を催した。弁少将が歌う「梅が枝」は見事だった。
こうして、腰結役の中宮、紫の上など多くの人が集う中、明石の姫君の裳着は盛大に行われたが、母親である明石の君は外聞を憚って同席することができなかった。
2月20日過ぎ、春宮が元服した。他の姫君たちの親は源氏に遠慮して入内を見合わせている。源氏は、宮仕えとは多くの優れた姫君が集う中で優劣の差を競うべきであると考え、明石の姫君の入内を延期した。左大臣の娘が早速入内し、麗景殿女御(れいけいでんのにょうご)となった。明石の姫君の入内は4月と決め、その間に着々と入内の準備を整えていった。調度品を吟味し、物語や歌集の良書を集めていき、それらを収める箱にもこだわった。源氏は、紫の上を前に、様々な女性の文字の書きぶりを思い出とともに語り、紫の上の仮名の書きぶりは朧月夜や朝顔の姫君と並んで上手いと褒めた。風流な人々に手本となるような書き物の執筆を依頼し、源氏自身も筆をとった。
さて、作中に登場する薫物くらべの「梅花」の調合をしたのは源氏育ての母、紫の上です。朝顔の君は「黒方」を、花散里は「荷葉」を、実の母、明石の君は「衣薫香」(くのえこう)を調合しました。
入浴する習慣のない平安貴族にとって香(薫物)を薫きしめることは身だしなみの一つです。香りを聞き分ける能力を磨き、個性を発揮して人柄と教養が滲み出る調合に気を配ったそうです。
練香は現在でも、お香専門店などで手に入れることができます。梅花は梅の花をイメージした春を感じる華やかな香りです。平安時代には「梅花」の練香は春しか使えない決まりがありました。梅の花の色と香りを楽しみながら、梅花の薫物を室内で薫くというのは、趣き深い楽しみかもしれませんね。
ちなみに現世では「梅仕事」が流行になりつつあります。梅仕事とは、自分で梅干しを作ったり、梅シロップを作ったり、自分の好きなお酒で梅酒を作ってみたりすることです。
毎年6月の梅収穫時には、梅見月の自社農園で栽培した青梅の販売を行っています。
梅農家さんに負けない、こだわりの梅を育てていますので、ご興味がありましたら一度ご購入してみてください。
※簡単な梅シロップ、梅酒の作り方(レシピ)も付いています。
(1)裳着(もぎ)とは、平安時代から安土桃山時代にかけて行われた、女子が成人したことを示す通過儀礼。
(2)入内(じゅだい)中宮・皇后となるべき人が正式に内裏(だいり)にはいること。
(3)薫物(たきもの)沈香や白檀、丁字、甲香などの香料を粉末にして練り固めたお香。